企業活性化で考慮すべき要因を考察する
レポート 企業活性化研究会 企業活性化研究会(2022年) 研究会 2022年度 研究会/講演会

企業活性化で考慮すべき要因を考察する

 事業環境やビジネスモデルの変化、新技術や働き方改革への対応、社会課題への貢献、リスク要因の拡大に対応した対策(パンデミック、地政学要因などによるサプライチェーンの不安定化、ネットセキュリティの脅威、金融市場の変化、安全保障の観点など)、脱炭素などの地球環境への対応、DX対策など、企業に求められる事項は増加しており、経済安全保障に関心が高まるとともに、グローバル対応の考え方も変化を求められる状況が起こっています。中小中堅企業においては、コスト上昇への対応のほか、高齢化や事業継承などの課題もあり、ますます厳しい経営環境となっています。

 本レポートでは、企業経営で考慮すべき要因を整理し、そのキーワードをピックアップしてみました。働き方改革や企業改革、経営課題等に関するワークショップでの要因抽出などでの参考になれば幸いです。
 昨年のレポート「サステナビリティへの企業のアプローチと課題(SXへの取組み)」を記した時点から、国際情勢が大きく変化し、その影響により企業が考慮すべきリスクがさらに増加しています。今一度、ワークショップなどで企業の課題や施策について議論してはいかがでしょうか。


目次


1.働き方改革関連の要因と課題

 働き方や人材という観点で考慮すべき要因やテーマを以下の図に示します。新型コロナの影響でリモートでの働き方が、モチベーション、オフィスの目的や位置づけ、組織や中間管理職のあり方、働く人の幸福論、ジョブ型雇用制度まで議論を広げ、関連して、成果の客観性をいかに高めるかの議論が続けられています。今後は、エッセンシャルワーカーの働き方も自動制御機器やAIにより大きく変化することが予想されます。
 最近では、人材への投資の必要性が認識され、人材育成関連を経営理念とする成長企業もみられます。学び直し(リスキリング)に対する制度を新設する企業もふえており、これに関連するビジネスも注目されています。ミドルマネジメント層の学び直し、シニア世代の経験知の活用などは重要な課題となっています。
(人への投資で連携する企業の協議会「人的資本経営コンソーシアム」が今年(2022年)8月に設立総会を開催。
 設立時点で320社が参加し、経済産業省と金融庁がオブザーバーとして参加しています。今後、どのような活動となるのか注視したいと思います。)

 働き方改革では、これまで主に「働きやすさ」に焦点があてられていましたが、最近では、「働きがい」が注目されています。基本は、仕事に対して前向きであること。企業は、個人(従業員)が前向きで、創造力が発揮できるような環境づくりに注力することが求められます。個人の主体性を高めるためには、フラットな組織風土組織の課題の可視化も要因となります。幸福論では、「働く幸せ実感」が高いほど生産性が高いという報告もあります。

 これからの人材に関し、経済産業省の未来人材会議では、若い世代に求められる能力として、「常識や前提にとらわれず、ゼロからイチを生み出す能力」、「夢中を手放さず一つのことを掘り下げていく姿勢」、「グローバルな社会課題を解決する意欲」、「多様性を受容し他者と協働する能力」をあげています。自分の価値をいかに最大化するかが重要となります。
フリーランスやギグワーカーと企業との関係にも課題は多くあります。彼らを守る法律も整備されておらず、雇用保険など各種の公的保険の対象ともならず、企業との仕事上の契約でも弱い立場に置かれるケースがみられます。能力開発はもちろん、働きがいをどのように見つけ、モチベーションを保つかは大きな課題といえます。

2.事業環境の変化、リスク増大の要因と課題

 IT化などによるビジネスモデルの変化に加え、新型コロナの出現、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけとした生産遅延やサプライチェーンの混乱、フェイク情報やサイバー攻撃の激化など、企業が対応すべき多様なリスクへのアプローチの見直しが求められます。また、こうした事象から発生する原材料や部材の値上がりなどの経済的要因は、特に中小中堅企業に甚大な影響を与えています。
 社会環境やビジネス基盤の変化、計画停電や通信環境トラブルなど重要インフラの停止取引先の倒産などが事業に大きな影響を与え、リスク対応を誤れば、事業継続が不可能になり、これまでの震災を主因とした事業継続計画(BCP)の全面見直しを考えざるを得ないと思われます。社会の重要インフラを支える産業のDXアプローチの遅れがもたらす影響は甚大となります。

3.イノベーションや新技術への対応の要因と課題

 イノベーションや生産性向上で、最近採用されるアプローチとして、バックキャスティングSFプロトタイピングアジャイルデザイン思考アート思考などが注目されています。デザイン思考は、ユーザニーズを起点としているのに対し、アート思考は自分の興味や関心を起点とし、自分軸でアイデアを生み出すものです。新たな発想で事業アイデアを生み出すプロセスを支援します。また、制約のある多様な人々と一緒に企画や開発を進めるインクルーシブデザインを採用する企業(ソニーグループや花王など)も増えています。

さらに実践の面では、不確定要素の多い時代に素早く成果を出すため、アジャイル的な進め方が必要になるケースもあります。失敗の許容、社内の雰囲気づくりのほか、問題発見能力の強化策も重要になり、自社のみでの施策だけではなく、他社との協創、大学や業界などとの連携、場合によっては補助金の活用なども考えられます。プロセスの工夫や技術開発に加えて、ブランドの育成による付加価値の高いビジネス展開も重要になります。

 技術の進化はビジネスを大きく変え、たとえば、製造業で進化したデジタルツイン技術は、シミュレーションの高度化とともに、都市開発や建築をはじめ、多くの分野で採用されています。最近では、仮想空間と現実空間をシームレスにつなぐ技術が注目されており、今後は、仮想空間を活用したビジネスがブレイクする可能性が高いと思われます。

4.SDGsやエネルギー供給の要因と課題

 最近の政治的軍事的衝突が脱炭素関連のアプローチに最も影響を与えています。エネルギー安全保障の観点から、他国からのエネルギー供給はリスクとなることが再認識され、需給と脱炭素、コストのバランスが課題となっています。一方で、最近、地球規模での気温上昇による山火事、局所的な異常気象による水害、過去に例がないほどの干ばつによる水不足や電力不足などが頻発して、食料不足も懸念され、特に開発途上国に大きな影響を与えています。脱炭素も遅らせることができない現実があり、制度上の抜け道を探すのではなく、工夫により実践することが重要となります。

5.サスティナブル経営の要因と課題

 パーパスやサスティナブル経営は、上場企業にとっては必須の項目となっていますが、まだまだ具体的な施策に落とし込めていない企業や形式だけを整えている企業も見受けられます。事業の要素分解による自社の強みの分析も必要になり、自社への認識を高め、自社の変革への動機となるのがパーパスといえます。長きにわたり安定的な経営をしている企業の理念としているのが「信頼」であり、製品の信頼はもちろん、経営者と従業員の理解と寛容に基づく信頼関係、地域への貢献と信頼が重要で、信頼に対する投資が必要となります。重大リスクが発生した場合にも、社会的責任がはたせられるかを検証しておくことが必要です。

6.さいごに

 今回のレポートでは、企業活性化関連として、働き方改革、事業リスク分析、イノベーション推進などのワークショップや検討会で活用できるよう、要因や課題を列記してみました。当研究会では、企業訪問、経営者インタビューのほか、報道各社の記事や調査研究機関のレポート、各省庁の報告書などを参考に議論を進めています。そうした議論を反映したレポートを、今後も公表していきたいと考えています。

( 企業活性化研究会   岡田 正志 (B&Tコンサル・オフィス) )


参考資料

  • アジャイル・ガバナンスの概要と現状 Society5.0における新たなガバナンスモデル検討会報告書(Ver.3) 経済産業省 2022年1月
  • サービス生産性レポート  経済産業省「サービス産業×生産性研究会」報告書 2022年3月
  • 通商白書2022  経済産業省 2022年6月
  • 令和4年版 情報通信白書(ICT白書) 総務省 2022年7月
  • 経済産業政策新機軸部会 中間整理  経済産業省 2022年6月
  • 世界経済の潮流 2022年  世界経済の不確実性の高まりと物価上昇  内閣府 2022年7月
  • 令和4年度 年次経済財政報告 人への投資を原動力とする成長と分配の好循環実現へ 内閣府 2022年7月
  • 令和4年版 科学技術・イノベーション白書  文部科学省 2022年6月
  • フィジカルインターネット・ロードマップ フィジカルインターネット実現会議 経済産業省 2022年3月
  • 統合イノベーション戦略2022  内閣府 2022年6月
  • 2022年版 ものづくり白書(令和3年度ものづくり基盤技術の振興施策) 経産省・厚労省・文科省  2022年5月
  • 未来人材ビジョン(未来人材会議 中間とりまとめ)  経済産業省 2022年5月
  • 中堅中小企業等向けデジタルガバナンス・コード実践の手引き  経済産業省 2022年4月
  • 令和4年版首都圏白書(令和3年度首都圏整備に関する年次報告)  国土交通省 2022年6月
  • まちづくりのデジタル・トランスフォーメーション実現ビジョン  国土交通省 2022年7月
  • グレートカンパニーアワード2022(船井総合研究所主催)  2022年4月
  • 日本リスキリングコンソーシアム 発足   2022年6月

    ( 2021年以前の参考資料については、当研究会レポート「サステナビリティへの企業のアプローチと課題」(2021年7月)などを参照してください。 )