鳥居 高之
私共は千葉の船橋でITとビジネスの教育をしている専門学校です。在校生の95%以上は千葉県出身の高校生という非常にローカルかつドメ スティックな学校です。世の中に送り出している人材のレベルとしてはミドルからロワーミドル辺りの層が中心です。言い換えれば日本の人材ピラミッドの中間 層への人材供給源です。どんなにトップ層が優秀でも中間層が脆弱では基盤が揺らいでしまいます。そのような気概で日々人材育成に取り組んでおります。
最近の若者は真面目でおとなしいと言われています。草食系という呼称もすっかり定着しました。同じような語感を持つキーワードとしては、 巣ごもり、弁当男子、家飲み、なども挙げられるでしょうか。しかし若者に限らず、どうも日本全体が内向きになっているようです。ガラパゴスとも呼ばれてい ます。その言葉だけ見ると、何か世の中に背を向けて自分達の世界に閉じこもっているような、とてもネガティブなイメージです。しかし歴史を振り返れば江戸 時代などは典型的なガラパゴス状態です。そしてこの時代ほど日本独自の文化や価値観が函養された時期もないと思います。
私は日本人の歴史や民族性を考えると、欧米や大陸の価値観や商習慣といったものとガチンコ勝負するのは、基本的には向いていないと思いま す。むしろ自分達の世界に留まり、外からは何やってるんだろうと見られながらも独自の進化の道をたどる方が、結果として独自性のある、外の世界にも魅力の あるシステムや価値を生み出すのではないかと思います。元祖ガラパゴス諸島や小笠原が世界遺産になっているのもそのためですし、もし当時そのような仕組み があれば、江戸の町を世界遺産にしようという運動も起こったでしょう。
とは言え本当にこのような生き方だけを選ぶと、完全にメインストリームには背を向けたニッチ路線になってしまいますし、以前ほどの勢いは無 いにしても、真にガラパゴス化するには日本の存在は大き過ぎます。そもそもこのコラムのタイトルも逆説的なものです。教育者という立場から私が現在の若者 達に言いたいのは「外を見てからこもれ」ということです。外の世界に自分自身では一切触れもせず、ネットやマスコミなど人のフィルターを介した情報のみで 判断して内にはこもらないで欲しいです。
特に日本の若者には、台頭著しいアジアの元気な若者と触れ合って欲しいです。若者は感性が豊かですから、一度外の空気に触れてみれば、自分 自身が外向き人間か内向き人間か、皮膚感覚で分かると思います。こもりたい人はエネルギーを内面に向け、日本をより魅力あるガラパゴスにして欲しいと思い ます。問題は外の世界と向き合い、あるいはその中に飛び込み成長することを望む若者にどのような学びの機会を与えるかです。
人材ピラミッドのトップ層は、程度の差はあれ自力でグローバル対応出来ると思います。しかし前述したように、中間層が脆弱では真のグローバ ル化はできないでしょう。そして専門学校のミッションは中間層の底上げです。ですから私が目指したいグローバル教育は、学生に海外でMBAを取らせるとか そういうものではなく、もっと職業教育的な専門学校目線の教育です。私達が大学のようなことをしても意味がありません。(逆に最近は専門学校の真似をする 大学が多すぎて苦笑してしまいますが..)
具体的なステップについてはまだ手探りの部分もありますが、機はほぼ熟していると思います。恐らく多くの日本の若者は、「自分は日本語しか 話せず日本でしか働くことができない。これでいいのだろうか。」と意識、無意識かかわらず感じているのではないでしょうか。少なくとも自分の子供には、世 界のどこでも生きて行ける教育をしてやりたいと思っています。それは単に語学力ではなく、未知なるもの異なるものに対して心を開いて向き合って行くような 価値観です。それがグローバル人材のエンジンだと思います。
ただ親御さんからお預かりしている、つまり人様のお子さんに対し、このような教育をしてよいものかと長い間悩んでおりました。船橋情報ビジ ネス専門学校は日本国民養成所です。これは先代校長の父親の代から言っていることです。下手にグローバル教育をすると日本から人材が流出する後押しになっ てしまうのではないか、と考えておりました。
しかし最近はそうではないと確信するようになりました。日本でしか生きられない、日本でしか働けないという国民が、果たして真に自立した国 民なのでしょうか。例えばどんなに仲の良い夫婦でも、片方が「私はあなたに捨てられたら生きて行けません」という状態であれば、たとえどんなに仲が良くて も、自立した大人同士の関係とは言えません。「自分はいつでも日本を飛び出して生きて行ける。しかしこの国で生まれ育ててもらった恩がある。だからこの国 に尽くしたい。」という国民が増えないかぎり、国家と対等に向き合える真の愛国者は育たないと思います。
少し話が大げさになりましたが、とにかく私自身が外国好きなので、外の世界と接点を持った教育をしたいというのが本音です。本校の学生のみ を対象にしたグローバル教育は現実的には難しいので、他の専門学校、大学生や一般社会人を対象にしたオープンな講座を立ち上げたいと考えております。企業 側のご協力がないと絵にかいた餅のようなカリキュラムになってしまいますので、グローバルIT人材育成コンソーシアムのような組織を立ち上る準備をしてお ります。ご関心のある方は、ぜひお声掛けください。
最後になりますが、本校の教育理念は「若者をハッピーに!」です。もちろん幸せは自分でつかむものですから、そのお手伝いをするのが私達の 仕事です。必要最低条件は大人として自立していることです。日本の若者がハッピーになるために、国際社会でも自立して生きて行けるようなお手伝いを、これ からして行きたいと考えております。
<プロフィール>
鳥居 高之(とりい たかゆき)
船橋情報ビジネス専門学校 校長
昭和39年生まれ東京出身、千葉県船橋市在住。慶應大学理工学部大学院卒業。住友セメント勤務、マサチューセッツ工科大学客員研究員を経て、平成19年より父親である鳥居勝一理事長から、今年で創立30周年となる船橋情報ビジネス専門学校の校長職を引き継ぐ。
http://facebook.com/takayuki.torii