池邊 純一氏
最近の日本代表サッカーの試合を見ていて、みなさん、苛立ちを覚えませんか。
私は、サッカーの専門家ではなく素人の意見ですが、ゴール前に流れを持ち込むまではフォーメーションプレーで美しく決めていても、相手ゴール前でシュート せずにパスを回し、満を持して放ったシュートはゴールと違う方向に飛んでいくところに、実に、歯がゆさを感じます。
話しは変わりますが、先日、日本の製造業を代表する超一流企業の社長の講演を拝聴する機会がありました。その社長は、「最近、現場の人が言われたことしか しなくなった」と嘆いていました。そこで、現場の人達が自ら課題を見つけるためにどうすべきかと質問したところ、まずは、先行しているものを真似して学ぶ ことだと回答されました??
さて、自己紹介が遅れましたが、私は大学卒業後、日本企業に18年、外資系企業に12年勤めた後、昨年10月に起業しました。BPIAには、昨年(2009年)12月に入会致しました。
最初に入社した日本企業では、電子回路自動設計システムやCASEツールの開発を担当しました。その当時は、ソフトウェア工学が花盛りの時期で、ウォー ターモデルでの開発を如何に適切に実施するかがプロジェクトマネジメントの手腕でした。そこでは、上流工程で決める仕様の品質が重要であるとされ、ユーザ レビューも徹底して行われていました。私は、電子回路設計の経験がありませんでしたので、設計者に沢山の質問投げかけ、製造現場で電子回路の製造工程を観 察しどん欲に勉強してシステム要件を自力で纏め上げ、厳しいレビューを何とか乗り越えてきました。
一方、その後在籍した外資系企業では、一人ひとりの役割と目標が厳密に定義されていました。そして、決められた範囲で役割を果たすことで目標を達成することが業務の目的となり、その枠組みに沿った行動がなされるよう徹底されていました。
最初のサッカーの話題に戻りますが、ゴールするという目標は明確でありながら、何故、攻撃的にシュートしゴールを狙わないのかとの問いに、私は後者のケー スを当てはめてしまいます。日本を代表する超一流製造業の社長が嘆く「最近、現場の人が言われたことしかしなくなった」もまさにこうしたことではないかと も思います。
「自律」という言葉がありますが、組織の中で決められた枠の範囲で自らの裁量による行動が求められたとしても、それでは「自律」にはならない。一人ひとり がどん欲に目的を追求することの中に、本当の「自律」があるのではないかと思います。目的と行動が整合して組織に周知されていれば「自分勝手な行動」では なく、組織を乱すことにもならないとも思います。そして、どん欲に目的を追求する人は、やがて、組織を引っ張っていくことにもなるのだと思います。
サッカーのワールドカップも間近ですが、ワールドカップという大きな場でどん欲にゴールを目指しチームを勝ちに導くスタープレーヤーが生まれたなら、日本 は勝ち進むこともできるかも知れません。日本企業も元気がありませんが、こうした時期だからこそ、役割と目標で人々を縛ることなく、多様なスタープレー ヤーを生みだす風土を築くことが必要な気がしています。
<プロフィール>
池邊 純一(いけべ じゅんいち)
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長
略歴
1979年 3月 | 靑山学院大学理工学部物理学科卒業 |
1979年 4月 | 日立通信システム株式会社入社 |
1993年 7月 | 株式会社アドイン研究所入社 |
1997年10月 | 日本NCR株式会社入社 |
2006年10月 | 日本ヒューレット・パッカード株式会社入社 |
2009年10月 | サステナブル・イノベーションズ株式会社設立、現在に至る。また、地域活性化と食の問題をテーマとした社会的起業も目指しています。最近は「農」にも関心を持っており、毎週末に農作業を行っています。 |
自著本
「変化の兆しを捉えて行動する組織の作り方 -知の競争力をデザインする-」 2008年10月15日、文芸社
成熟した格差社会では、変化が発生してから対応するのでは遅い。兆しの段階から変化を捉えて、みずから変化をマネジメントする新たな経営のパラダイムを示す。
- 第1章 変化の兆しを捉える組織を実現するには (いくつかの変化の兆し)
- 第2章 変化の兆しを捉える組織をデザインする
- 第3章 変化の兆しを捉えて行動する組織をどうマネジメントすべきか
- 第4章 変化の兆しを捉える組織を実現する情報
- 第5章 変化の兆しと日本企業の未来に向けて