BPIA研究会『目からウロコ〜!』 レポート 研究会 2012年度 研究会/講演会

【レポート】第57回 目からウロコの「新ビジネスモデル」研究会(2012/9/25)
『ベンチャー経営と電子書籍の現状と今後の方向性まで』
講師:小林 徳滋 氏
アンテナハウス株式会社 代表取締役

テーマ:ベンチャー経営と電子書籍の現状と今後の方向性まで
講 師:小林徳滋 アンテナハウス株式会社 代表取締役
2012年9月25日(火)16:00~ / 市ヶ谷 アーク情報システム

 

■はじめに

 

皆さん、こんにちは。アンテナハウスの小林です。

 

会社は今期で 29期目になります。何とか29年やってきました。東京東日本橋に本社がありまして、長野県伊那市と名古屋に支店があります。また、アメリカのデラウエア州に100%子会社を作っております。デラウエア州はデュポン社の拠点です。税率が安いために、ペーパーカンパニーが多いのですが、私どもは、従業員7人の実態のある会社を置いています。中国北京にも100%子会社を設立し、17年くらいになります。

 

当社の製品には、「瞬簡PDFファミリー」というデスクトップ製品があります。PDFを瞬間的に作り、PDFの逆変換もできる製品です。「書けまっせPDF」という製品は、PDFに手を加えずに、データを書き込める製品です。官庁の帳票用にも使われています。これらを統合したものが「PDFスイート」です。

 

会社設立は1984年8月、資本金1500万円で設立しました。

1986年12月、ワープロ専用機とMS-DOS文書コンバータの出荷を開始し、1990年3月に、リッチテキスト・コンバータシリーズを出荷しました。2000年11月に、XSLFormatter V1.0を出荷開始して、2001年4月からは、欧米市場での販売活動を開始しました。2005年6月に、自社ブランドPDF製品「リッチテキストPDF」でPDFデスクトップ製品分野に参入。2011年9月からCAS-USサービスを開始しています。

 

 

■変換サービスの開始

 

自分の経歴を話すのは苦手ですが、ご要望がありましたので少し触れておきます。

 

1984年の8月に日経マグロウヒル社から脱サラして、出版社をやろうとアンテナハウスを設立しました。最初、専門のニュースレターを日本で販売し、英語版を作ってNEWSNETに配信を始めたのですが、これがうまくいかずに大赤字になりました。バランスシートでは、まだ資産が残っていましたがキャッシュがなくなって、大失敗でした。

 

1986年12月発売のMS-DOSコンバータが転換点でした。

1980年代中ごろからワープロ専用機が登場し、それを印刷する際には電算写植機が使われました。そのためワープロ専用機で入力したデータを、電算写植機で使うための変換ソフトが必要になってきました。1986年12月の日経新聞に5センチくらいの小さな記事が載ったところ、電話がじゃんじゃん鳴り出しました。これはいけると、お正月に神頼みをして、1987年から本格的に売り出すことにしました。

 

当初、シャープのワープロ専用機の「書院」だけ自前で作っていたのですが、富士通の「オアシス」や東芝「ルポ」などの他のワープロにも対応できるよう、急いで品揃えをして、主なワープロ専用機のフォーマットに対応できるようになりました。これは自社開発ではなく、契約をしてライセンスを払うことにして、品揃えをしました。これが印刷会社向けに飛ぶように売れました。問い合わせの電話も多く、90年の初頭まで5年間、売れ続けました。おかげで、その後いままで資金的に困ったことはありません。

 

1990年3月になって、リッチテキスト・コンバータを発売しました。印刷会社にとっては書式などなくなったほうがよかったのです。しかし、また別の要望がありました。一般のユーザーはワープロで作った表・罫線などを含む文書を、パソコンのワープロソフトの「一太郎」に表や書式まで含めて移したいという要望がありました。そのうち同じパソコンのワープロソフトの「松」でもできるようにしました。はじめは変換がうまくいかず、罫線が乱れたりして、もうやめようかと思ったこともありますが、当時の松下の「U1 PRO」というワープロに搭載したいということで、おカネをいただいたものですから、それで品揃えができて、やっと売れ始めました。品揃えができて、変換がうまくいくまでに3年ほどかかっています。

 

その後、1995年にウィンドウズ95がでてきて、ワープロ専用機や「一太郎」から「Word」への変換が必要になってきました。その変換ソフトが、また売れました。2000年頃がピークでした。 2000年代に入ると、ワープロ生産が終了し、2010年頃にはフロッピーディスク、フロッピーディスクドライブ装置も生産・販売終了となって、そろそろ製品寿命の終わりとなってきています。こうした製品は、表に出るまでに意外に時間がかかっています。ウィンドウズも使われるようになるのに10年かかっています。私たちも、変換ソフトを20年くらいやってきました。

 

■構造化文書処理サービス

 

1990年代半ばから、SGMLの勉強を始め、ドキュメント再活用を考えるようになりました。SGMLというのは、文書を電子化するための書式の規格です。XMLなどの親に当たります。

 

ドキュメントの再利用を促進するには、構造化文書にすることが必要だと考えました。構造化するとは、コンテンツとレイアウトを分離することなのですが、コンテンツとレイアウトを分離するということは、WordなどのWYSIWYGの方式とは対極のものになります。

WYSIWYGは、What You See Is What You Get(見たままが得られる)の頭文字をとったもので、画面上の編集レイアウトと印刷のレイアウトが同じになります。

 

1998年にXMLの仕様が標準化され、「これだ!」と入れ込んで、会社を危機に陥れた例が多くあります。私は最初に失敗しているので慎重でした。ドキュメントの構造化はそんなに簡単にいかない、難しい概念です。

 

私はまず簡単なエディタを開発しました。SGMLを編集するエディタとして、製品を企画しました。その後、1998年にXMLの仕様が標準化されたのに伴って、XMLを編集するエディタとして開発しました。しかし、簡単なエディタで、あまり売れませんでした。構造化文書では、レイアウトを取っ払ってしまうということですから、印刷するにはレイアウト指定言語が別途必要になります。当時SGMLを印刷する製品も既に作られて、特許文書を印刷するときに一部使われていました。

 

後発ですので、これは見送って、XML文書を綺麗に組版するための仕様として、W3Cで勧告されたXSL(Extensible Stylesheet Language)に対応したXSL Formatter の初版を2000年11月にリリースしました。これは海外で引き合いが多くありましたので、2001年4月に英語版を出しました。W3F(World Wide Web Consortium:wwwで使用される各種技術の標準化団体)で決めた世界標準をサポートするというので、XSL Formatter は海外で人気になりました。アメリカの場合、構造化文書を使う素地がもともとあったため、売れたのだと思います。

 

2002年から2003年にかけて、どういう風にこれを使っているのか、用途サンプルをもらってニーズを探りました。こちらはデスクトップ上で印刷するソフトとして作ったのですが、ところが、サーバー上でPDFを高速に作るという要望がかなりあるのがわかりました。それで、2003年から2004年にかけて、サーバー版を作り、これが売れました。幸い競争相手が出てこなかったのが助かりました。それで、アメリカに子会社を作ることになりました。

 

ソフトの販売だけなら、ライセンスキーを送るだけで済むのですが、サーバー製品なので、サポートが必要となります。現地で3名の専門家のサポートを置いています。この製品が、アメリカの国内歳入庁で採用されました。日本でいうと国税庁にあたる機関です。2010年に入札があり、落札しました。2010年から1年かけて、Formatter を改良しました。アメリカの場合、自分で納税をしないといけないので、それを解説する必要があります。そのための文書をPDF化する用途です。国内歳入庁はアメリカの一番大きなPDF配布サイトになると思います。

 

■電子文書、電子出版の今後

 

XML文書の応用分野として、DocBook、S2000D、XHTML、DITA、JATS などがあります。

 

このうちDITAは、文書を細かくトピック単位で作って行き、たくさんのトピックをマップを使って組み立てるもので、マニュアルなど新しい利用法が検討されています。これを利用すると、変更・追加された部分だけ新しいトピックを作ればよくなります。横河電機、日立、NEC、ブラザーなど、DITAを使ってマニュアルを作り始めています。これはだんだん活発化しています。またJATSは、論文などをXML形式で記述するための標準規格になっています。学術情報については、海外では紙媒体がなくなっていますが、日本はまだ紙媒体が中心です。これから、電子化が主流になってくると思います。

 

2010年は電子書籍元年といわれました。それは、欧米でスマートフォンのiPhone やタブレットのiPad、あるいはKobo Touch、Kindle など専用読書端末がでてきて成功したのがきっかけです。電子書籍は、日本でも取り組みが活発になりましたが、アマゾン、グーグル、アップルの大手3社が、まだ日本に本格的参入をしていません。日本の電子書籍市場規模は、2010年までは伸びてきましたが、2011年には逆に落ちてきています。現在は携帯向けからの転換期にあたります。コンテンツの売上が減ってきています。今後、スマートフォンやタブレットPCへと転換が進むと思います。電子書籍ファイル形式は現在多様で、日本独自の「.book」「XMDF」、欧米のデファクトとなっているEPUBなどがあります。

 

2010年10月、EPUB3.0になってから、日本語表示機能が仕様に盛り込まれ、縦組みやルビ、禁則処理などが可能となります。EPUB出版が活発化し、Kobo Touch で採用になりましたので、だんだん使われるようになっています。PDFは、紙の情報を電子的に同じ様式にしたものなので画面サイズに入りきらなくて読みにくいですが、EPUBは画面のサイズに合わせてレイアウトする機能があります。ただ、機能的に低い表示レベルのため改善の余地があります。また、EPUBはテキスト本文にタグをつけていくのですが、そうなると、タグを誰が、いつ、どうやって入力するか、というのが大きな問題となります。たいていの人はタグの入力ができません。そこで最小ステップで済むように、CAS記法を作りました。現在想定している利用者は、商業出版社、非市販本の製作者、報告書、会報・広報、メルマガ、グループ・個人で本を作りたい人、マニュアルの制作者などです。

 

電子出版は今後どうなるのか。読者の立場からすると、どこでも入手できて、それも直ちに入手できること。検索もできて、メモの共有ができる。場所をとらないし、持ち運びに便利。こういったところが利点です。

 

一方、困ることもあります。まずリーダーの価格がまだ高いこと、リーダーの電源が必要で、これが気にならないほどには持ちません。紙の質感がないこと、本のように相続できないことも問題です。そして、デジタル著作権管理DRMで暗号化され、リーダー端末ごとにそれが違うため、他の端末では読めない点が問題です。現在のところ、DRMがかかっている限り、簡単に解決できない問題があるといえます。

 

現状はリーダーによって表示が違っていて、傍線が右なのか左なのか不統一ですし、解像度が不十分です。日本語の場合、欧文の2倍以上の解像度が必要です。いまの解像度では日本語には十分ではありません。まだ読みにくくて、もっと高い解像度が必要になります。

それから高度なレイアウトができません。文字テキスト中心でないとむずかしく、専門書のような複雑なものは無理です。書籍用リーダーデバイスが十分には普及していません。一方で、個人やインディーズ出版の可能性は広がっています。欧米ではすでにベストセラー並みに売れている人もいます。

 

欧米では編集や校閲をしてくれるサービスも出てきています。個人の著者のためのサービス、文章の推敲サービス、校閲サービス、レイアウトサービスなど、かなり安いサービスが提供され始めています。

 

電子書籍の未来はどうなるのか、ということになると、日本ではかなり普及に時間がかかるのではないかと思います。レイアウトがなかなかうまくいかずにいます。漢字の縦組みレイアウトは難しく、現状のEPUBリーダでは複雑なものは無理です。このハードルは高いと思います。作っている人が欧米人なので、日本の組版を知らないのです。本当は、専門書・技術情報の電子化をしなくてはいけないのです。利便性、検索、資料の重要性から必要です。こうしたところからブレイクするかもしれません。

 

 

■おわりに

 

最後に経営についてお話しておきます。私は29年やってきました。このうち、はじめは自己流でした。でも自己流はだめです。プリンシプルが必要です。15年目頃になって、盛和塾で学びはじめました。これがあったため、売上が減ってもやってこられたといえます。盛和塾もJALの再建が成功して以降、人が多くてここだけでは無理かもしれません。しかし、脱サラした人や会社を起こそうという人に、経営の基本を教える場が必要だと思います。

 

EPUBにご興味がある方は、ネットからセミナーの申し込みができます。CAS-USを実際に使いながら練習するトレーニング・セミナーを毎週1回開催しています。また、CAS-US関連情報は、http://www.cas-ub.com で提供されております。

 

ありがとうございました。

 

アンテナハウス株式会社

http://www.antenna.co.jp/

 

 

<記録・丸山有彦>