株式会社ウエッブアイ 社長 森川 勇治 氏(BPIA会員)
2009年5月12日
聞き手; 大浦 淳 氏 テクニカルライター
BPIA会員には、画期的な技術やビジネスツールを持った企業が多数参加しています。本コーナーで順次ご紹介してゆきます。第1回は、エンタープライズプ ロジェクトマネジメント(EPM)の専門企業、株式会社ウェッブアイ社長 森川勇治氏を訪ねました。高品質の製品、高いスキル、そして多数の大手企業を ユーザーを擁するこの会社には、プロジェクトマネジメントに対する熱い思いがあふれていました。
一貫してプロジェクトマネジメントに携わってきた
聞き手: 森川社長、本日はお忙しいところお時間をいただきありがとうございます。プロジェクトマネジメントを専業にしている会社は珍しいですね。
森川氏: そうですね。現在、製造業全般とソフトウェア開発、建設、電力といった業種を中心に600社以上 のお客様と取引をさせていただいています。私は大学(早稲田の理工学部)時代からプロジェクトマネジメント(PM)系の研究室にいまして、以来25年ほど PMに携わっています。大学卒業後は三井造船に入社しました。化学プラントのエンジニアリング事業本部に配属されましたが、プロセス設計から機器設計や調 達、土木など全ての部署に回されたのです。このお蔭で、例えば、化学プラントを実際にエンジニアリングする際のプロジェクト全体を見ることができて非常に 良い機会に恵まれました。これが最初の資産になっています。その後も、システム寄りの仕事をしていましたが、私が入社した年に、三井造船が世界的にも有名 なアルテミス社のプロジェクトマネジメントソフトウェアを導入しました。何年かたって、アルテミス社から誘われまして同社に15年間勤めました。
聞き手: その後、ウエッブアイを起業された理由は?
森川氏: 15年程前に、特に製造現場でプロダクトデータマネジメント(PDM)がはやり始めました。これ は、プロジェクトの切り口というよりは、プロダクトの切り口、もしくはプロセスの切り口、それから生産性の向上や品質の向上を行うために、情報を整理し て、取り出しやすいようにしましょうという考え方です。要するに、製造のためのプロセスを守っていきましょうという試みです。そのほとんどが外国のもので すが、有名なPDM製品がいくつかあります。 PDM製品に関わっている人たちがPDM製品をお客さまに提案すると、プロジェクトマネジメントのツールを対にして欲しいと言われたそうです。
これはどういうことかというと、PDMの目的は、生産性の向上や品質の向上で、採算という観点は薄いのですが、一方で、プロジェクトマネジメントがいちば ん基本とするのは「採算」です。ある目的のことをある期間内に予算内で収めるにはどうしたらいいだろうかというのがプロジェクトマネジメントの基本です。
この「採算」と、生産性・品質の向上は、バランスを取りながら動いていく必要があります。 このことはPDM製品が出来きた当時から課題になって来ました。
いくつかPDMのメーカーの人たちに頼まれて、実際にプロジェクトマネジメントシステムとPDMのシステム連携を試みたことがありますが、なかなかつなが らないんです。なぜつながらないかというと、もともとPDMのメーカーがつくったPDMシステムは、プロジェクトマネジメント屋がつくったプロジェクトマ ネジメントシステムと連携することを考えずに設計していますから。あとからこれをつないでくれというと、非常に大変なんです。
特にプロジェクトマネジメントは、PDCAサイクルといわれている「Plan」「Do」「Check」「Action」を1週間ごとか1ヵ月ごとに回転さ せますが、こちらのPDMのほうはもっとダイナミックに動いているわけです。仕様変更が入れば、その場で仕様変更に対応するプロセス自体をネットワークの 中に流すというようなシステムなので、この二つのシステムを同期させるポイントというのが非常に難しいんです。この二つのシステムを、ある企業内でちゃん と動かすためには、初めからこのPDMと連携することを想定したプロジェクトマネジメントシステムというものを1からつくらない限り、これは成立しないと いうのが私の結論でした。ところが、アルテミス社は非常に良い会社ですが、日本には研究開発組織をもっていなかったのです。そこで、日本でそういった研究 開発自体を行うというためにこのウェッブアイという会社を設立したわけです。
もう一つの理由は、世界に通用する業務アプリケーションを日本から輩出したいと思ったのです。
聞き手: たしかに、ERPもそうですが、日本発のものは殆ど聞かないですね。
森川氏: 欧米で開発されたツールを日本にもってきて使っている、ここに一つ大きな問題を感じています。 EPRしかり、プロジェクトマネジメントソフトウェアもそうなんです。日本のプロジェクトマネジメントのやり方に合っていないのです。日本は、業務プロセ スに対するノウハウは決して低くありません。逆に非常に高いものだと思っています。特に製造業では、日々の改善を行うことによって国際競争力を十分につけ てきました。
ところが、日本の生産性が低下しているといわれる理由の一つは、外国のソフトウェアを導入してプロセスを一般化してしまったことにあるように感じています。
日本は何十年もかけて最適に近い業務プロセスを築き上げてきました。欧米の人たちは、それに追随しようとしてシステム化したのがSCMでありERPであ り、先ほどのPDMです。汎用化、いいかえると一般化したわけです。 欧米の人たちは一般化するのが得意だと思います。それを日本人が日本にもってきて使うと、せっかく積み上げてきたもの自体を、一般的なレベルまで下げてし まうことになるわけですから、競争力が落ちてしまう。そうではなくて、日本のレベルでの汎用化、日本人に合った汎用化で留めておかない限り、今後日本の産 業界は、どこかで大きく行き詰ってしまうと考えています。
聞き手: なるほど、日本には日本流のプロジェクトマネジメントがあるというわけですね。
森川氏: そうです。プロジェクトマネジメントがうまければ今よりもっと短期間で低コストでリスクも少なく 事業ができるのに大変もったいないのです。それからツールを使う側の事情もあります。例えば、欧米のプロジェクトマネージャはプロジェクトマネジメントし かやりません。だから多少使いにくいプロジェクトマネジメントソフトウェアでもがまんして使います。しかし日本のプロジェクトマネージャは他に「本業」を 持っています。だからそちらが忙しいとプロジェクトマネジメントができなくなる。そんな人にもプロジェクトマネジメントをきちんとやってもらうには、とこ とんまで使いやすいソフトウェアが必要です。
工程表作成ツール「工程’s」
聞き手: なるほど、その感覚は欧米のプロジェクトマネジメントソフトウェア開発企業には理解しにくいところですね。では、御社製品を具体的にご紹介いただけますでしょうか。
森川氏: 3年の開発期間を経て発売したのが、工程表作成ツール「工程’s」です。おかげさまで2008年3月にはバージョン3をリリースし、現在3万2千人の方にご利用いただいています。
聞き手: 工程’sの特徴は何でしょうか。
森川氏: まず、日本人にとって使いやすいプロジェクトマネジメントツールだということです。プロジェクト マネジメントが本業でなくても直感的にすぐに使える使いやすさや、変更が簡単に行なえる機能性の高さ、きれいな仕上がりにこだわった印刷機能などどれも従 来のプロジェクトマネジメントソフトウェアにはなかったものです。
また、価格も単体で9.8万円、オプションをつけても14.8万円です。体験版もありますので、まずご評価していただきたいですね。
聞き手: これは多くの方にぜひ使っていただきたいですね。どういった業種に向くのでしょうか。
森川氏: 建設業や自動車・ソフトウェア開発など製造業、電力や官公庁など広く導入していただいています。一度使い始めると手放せないと好評をいただいています。
聞き手: データ件数に制限はありますか。
森川氏: ありません。このツールは500年間に5分きざみのスケジュールを入れても軽快に動作します。スケジュールを変更しても一瞬で表示されます。このあたりも工程’sの大きな特徴です。
聞き手: ソフトウェアとしての内部構造がしっかりしているのですね。
森川氏: そうです。まず、データ数に制限を設けないという発想でメモリーをどう使うかを設計し、その上に機能を実装していきました。
そもそもプロジェクトを立ち上げられない会社が増えている
聞き手: ソフトウェア製品の開発・販売以外にも、コンサルティング業務でお忙しいと伺っておりますが、コンサルティングの進め方や特徴などについてお聞かせください。
森川氏: 最近では、「ワークショップ」というお客様向けの問題解決サービスのニーズが高まっています。通 常プロジェクトは目的や体制、予算、期間が定まって開始されます。しかし、プロジェクトを立ち上げる前に実施すべき「社内調整」ができない会社が最近増え ています。例えば、「生産管理システムを刷新しよう」という意識はあっても、どうするか、何を目標とするかが明確でないのです。だから体制や予算が決まら ない。そのまま情報システム部主導で動き出してもうまくいかなくなるという問題があります。
聞き手: よく聞く話ですね。
森川氏: 私はそれは最初の目標設定ができていないからだと考えます。そこを支援するのが「ワークショッ プ」です。一つ例をあげると、「生産管理システムをなんとか改善したい」という相談をうけると、まずは関係部門の全員を集めて議論することから始めます。 そこでは、すぐに生産管理システム自体のことを話題にはしません。「御社の強みは何ですか?」という問いかけから始ります。その際、声の大きい人の意見ば かりにならないように、意見やアイデア群を付箋紙などに分解し整理してゆくいわゆるKJ法のような手法を使ってなるべく多くの意見を出し合います。そうす ると、「自社の強みは納期が早いことだ」「お客様に個別の対応が迅速であることだ」など、各人が意識していなかった自社の強みが様々見えてきます。そうす ると、何故、生産管理システムを改善する必要があるのか、その理由が自然と導き出されます。その意識のあわせができた後、例えば、「顧客にあわせたきめ細 かい対応が自社の強みだ」とわかったら、その強みを伸ばすためのシステム刷新の目標を設定すればいいわけです。
聞き手: なるほど、そういった議論をファシリテートできることが御社の強みなのですね。
当社の財産はユーザ企業のみなさま
森川氏: おかげさまでこれまで600社と仕事をし、プロジェクトマネジメントの普及をしてきました。当社のユーザ会(初代会長は大成ロテック株式会社木内里美氏、現会長は日立建機株式会社柏木伸夫氏)には既に60社程ご参加いただき、幅広い業種でプロジェクトマネジメントが共通の課題なのだと改めて認識しています。
聞き手: これからもますます事業が拡大しますね。
森川氏: ただ、ひとつ課題はプロジェクトマネジメントをきちんと語れて実践できる社員の育成に時間がかか ることです。今は私と一緒に会社を設立した社員が多く、高いスキルを持っているのですが、それを若い社員に伝えていくことが課題です。ワークショップを取 り仕切るには経験が必要ですから。
聞き手: 他社との協業の可能性はありますか。
森川氏: 実際、いくつかのコンサルティング会社と共同でなにかできないかという話合いを進めています。
今後の展望
聞き手: 今後の事業展開について教えてください。
森川氏: 厳しい経済状況の中でも先進的な企業は次の戦略を描いていて、当社へのワークショップの依頼は 減っていません。また、プロジェクトマネジメントソフトウェアの次世代版を開発中です。これはWebを介してリアルタイムに情報交換しながら工程を修正で きるようにする野心的な機能を持ったもので、例えば本社と工場でリアルタイムに工程を変更することが可能になります。
当社の社名、「ウェッブアイ」の「アイ」は、インテリジェンス(Intelligence の「アイ」です。Webにインテリジェンスを持ち込みたいという思いから来たものです。このツールはそれを実現するものになると期待しています。
聞き手: 御社が本格的なソフトウェア開発を継続する理由は何なのでしょうか。
森川氏: 確かにソフトウェア開発に継続的に投資するのは大きな負担です。ですが、今の日本には自社でソフトウェアを開発する企業が少な過ぎるという危機感を持っています。
というのは、アメリカでは大規模な企業はコンサルティングやサービスで儲けていて、小さな会社は下請けで儲けています。そして中ぐらいの規模の会社が先進 的なソフトウェアを開発して業界を引っ張っています。イノベーションはここで起こっています。しかし、日本にはこの中ぐらいの規模の会社が存在していませ ん。これでは日本でソフトウェア業界が健全に育つことができません。私は当社がこの役割を担いたいと思っているのです。
聞き手: 具体的に御社のサービスや製品を知りたい場合にはどうすればよいでしょうか。
森川氏: 当社セミナーを逐次開催しています。次回は5月20日ですが、「工事進行基準時代のソフトウェア 開発実践プロジェクトマネジメントセミナー」という題で実施します。参加費は無料ですので、プロジェクトマネジメントを統括したり、プロジェクト型の業務 遂行に携わる方にぜひご参加いただきたい内容です。
聞き手: 会計基準の変更で今年4月からシステム・インテグレータなど受注ソフトウェア開発業に原則として義務づけられた工事進行基準が始りましたが、プロジェクトマネジメントにも影響はありますか。
森川氏: 会計上の義務になるわけです、かなりの影響があると予想しています。これを前向きにとらえてプロジェクトマネジメントを各社内で推進していただければと期待しています。
BPIAへの期待
聞き手: 最後に、 BPIAへの期待をお聞かせください。
森川氏: BPIAは多業種から参加されているので、もっと企業同士の交流があってもいいかなと思っていま す。プロジェクトマネジメントの悩みは、業種に関係なく共通しているものです。それをどう解決すればいいのか、こういうやりかたがある、こうすればうまく いったといった話は業界を超えて大変参考になります。ソフトウェア開発プロジェクトの工事進行基準対応などは、まず、正しい知識を共有化することに意味が あります。
また、私はプロジェクトマネジメントの問題は個々の企業に閉じたものではないと思っているのです。企業をまたがるプロジェクトや国家プロジェクトは大規模 なもので、プロジェクトマネジメントが必須です。アメリカはプロジェクトマネジメントにとても力を入れています。日本も日本的なプロジェクトマネジメント のよさを認識して日本的なプロジェクトマネジメントを確立すべきです。
聞き手: 本日はありがとうございました。
まとめ
国際展示上そばにあるオフィスは、窓から海が一望できる最高のロケーションでした(写真) 森川社長はプロジェクトマネジメントの背後にある日本企業の長 所と短所を理解しながら今後の日本のソフトウェア産業のあり方を真剣に考えていらっしゃる方でした。ウェッブアイの熱い思いが伝わることで、日本的なプロ ジェクトマネジメントを広く普及させ、日本の産業界全体が盛り上がることを期待しています。
<企業概要>
会社名: 株式会社ウェッブアイ
代表取締役社長: 森川勇治
設立年: 2000年
資本金: 209,604千円
従業員数: 25名(2008年2月現在)
本社: 東京都江東区有明
ホームページ: http://www.webi.co.jp/
主な事業内容: プロジェクトマネジメント、計画管理分野における以下の製品・サービスの提供
- ソフトウェアパッケージの開発販売
- システムコンサルティング及び個別システムの受託開発
- 当社製品の導入コンサルティング、運用支援、操作教育
- 一般PM教育及び個別の教育プログラムの開発