日 時:2014年5月14日(水)16:00~19:00
テーマ:「待つ」から「行く」へ。
超高齢社会へアプローチする訪問美容サービスとは‥?
場 所:プライスウォーターハウスクーパーズ(汐留)
講 師:高橋一成 株式会社訪問美容サービス 代表取締役最高共同経営責任者
皆様、こんにちは。BPIA(ビジネスプラットフォーム革新協議会)/Webビジネス研究会ナビゲータの石田麻琴です。今回は、5月14日に汐留のプライスウォーターハウスクーパーズさんのセミナールームで開催させていた、第14回Webビジネス研究会「『待つ』から『行く』へ。超高齢社会へアプローチする訪問美容サービスとは‥?」についてレポートさせていただきます。
今回、ゲスト講師にお招きしたのは、株式会社訪問美容サービスの代表取締役最高共同経営責任者である高橋一成さんです。高橋さんは、私との共通の知人を介してご紹介いただきました。高橋さんとは、4月の上旬に丸の内でお茶をさせてもらいました。それが初めての出会いです。訪問美容サービスの価値や高橋さん自身の経歴、スタートアップベンチャーについての考え方をお聞きする中で、サービスに対する謙虚さと、昨今のスタートアップベンチャーには少し欠けているようにも思われる「本物の」顧客目線の真摯な姿勢を感じ、Webビジネス研究会での講演をお願いさせてもらいました。その「『本物の』顧客目線」についての話は、レポートの後半でお話します。
高橋さんは、1985年生まれの29歳です。実は高校を卒業した後に入学したのは、四大でした。大学三年生のときに、大学を夜間の通学に変更し、美容専門学校に入学します。いわゆる、ダブルスクールです。昼間は美容、夜間は四大に通い、2007年に両方の学校を無事に卒業しました。その後、首都圏に約120店舗を展開する美容師チェーンに就職、直営店の管理やスーパーバイザー、店舗の開発業務などを経験しました。次に、全国に約70店舗を展開する美容室に転職し、新規事業の開発や運営本部などでの管理職を務められました。そして、2012年に株式会社訪問美容サービスを設立しています。
訪問美容を始めたきっかけとして、高橋さんが挙げたのは「美容師の雇用体系の変化」です。美容師の雇用形態としては、「代表(オーナーや共同経営者)」「社員(スタイリスト・アシスタント)」「アルバイト・パート(アシスタント・フロント)」「業務委託(スタイリスト)」の4種類があります。その中で、昨今、増加しているのが業務委託のスタイリストなのです。業務委託のスタイリストとは、特定の会社に所属するわけではなく、フリーランス(個人事業主)として活動する美容師のことです。業務委託型のスタイリストは、美容室の場所を借り、売上の40%~70%を会社に支払います。会社は、店舗(場所)・店舗設備(シャンプー台など)・材料(髪の染料など)・お客様の集客などを提供します。これが、いわゆる「面貸しサロン」です。
業務委託型の美容師が増えてきている理由として考えられるのが、美容業界の労働問題です。美容業界は元々、一人前になるまで修行、という考え方があります。ですから、開店前に早出しての準備や、閉店後夜遅くまで行われるカットの練習は、あくまで修行の一環であり、残業ではないという認識でした。しかし、2008年に大手美容チェーンで起こった残業代未払いの労働問題で、首都圏美容師ユニオン(美容師の労働団体)への支払いが認められたのです。この一件は美容師業界にとって衝撃的であり、美容室経営者は大きく2つのかじ取りを行わなければいけなくなってしまいました。一つは、休日の徹底。雇用形態を変えず、労働基準法を順守すること。もう一つは、雇用形態を業務委託へと切り替え、個人事業として勤務させること、です。
経営者として雇用しやすいのも業務委託の美容師ですが、働き方の自由度が高いのも業務委託の美容師ということになります。実は、日本には、家事や育児、体調などの理由で現場を離れてしまった「休眠美容師」が数多くいます。美容師資格保有者が約110万人いるのに対して、従業者は約50万人なのです。約60万人が資格を保有していながら、美容師室に所属していないわけです。ここに、訪問美容サービスの可能性があります。美容師が退職する理由は、「給与が低い」「精神的に疲れる」「長時間労働」「時間の融通が利かない、休みが取れない」などです。条件に合えば再就業したいというのが本音です。火曜日だけが定休日で、それ以外は朝から晩まで仕事。閉店後は、自分の練習や後輩の技術チェック。営業すれば「売上はどうだ?」と店長に聞かれる。決して美容が嫌いなわけではない、働き方に満足できれば。そんな美容師に新しい働き方を提案するのが訪問美容サービスです。働ける日だけ働くけて、パートよりも時給が高く、終わったらすぐ帰れる。そんな仕事を提供されています。
訪問美容サービスが美容師を派遣するのは、グループホームやデイサービスなど、介護施設がメインです。また、訪問美容サービスのことを紹介やインターネットで知った、家から出ることが難しい在宅の利用者も増えています。「カット」という無形のサービスに対して、お客様の期待は人それぞれです。私たちは、どうしても髪を切って「かっこよくなる」「美しくなる」というのが価値だと思ってしまいがちですが、「素敵な髪形」というのはひとそれぞれ。「あなたに似合う最高のヘアスタイルを提供します」ではなく、まずは「訪問美容サービスに頼んで良かった」と思ってもらうことを目指しています。髪をカットする利用者からもそうですし、受け入れてくれる介護施設からもです。
利用者だけではなく、施設で働いている職員にも目を向けるのが、訪問美容サービスの特徴でもあります。介護施設の職員は本当に忙しく、ギリギリの人数で運営されている施設がほとんどです。ですから、訪問美容の依頼を忘れてしまったり、異動や退社が多いため引き継ぎが上手くできていなかったりしがちです。職員のオペレーションの簡素化を徹底して、負担を減らしてあげることも訪問美容サービスを選び続けてもらう理由であるといいます。
これまで、求人広告費をかけずに美容師を集めてきた訪問美容サービスですが、インターネットからの登録・依頼が増えてきているようです。高橋さんの営業スタイルは、地道です。電話をかけてアポイントを取る。1件1件、要望・希望をヒアリングし、サービスを提案する。サービス利用の意見を担当者に利く。施設が慣れてきたら、定期訪問のご提案をする。美容業界には詳しい高橋さんも、介護業界についてはあまり知識がありませんでした。それでも、日々の活動からどんな施設なら訪問美容を受け入れてもらえるか、どの人にアプローチすると提案がしやすいか、利用金額をどこから出してもらえばいいかなどをマーケティングできているのは、地道に「人に会う」というところがベースにあるのだと感じます。スタートアップベンチャーは必ず「ユーザーファースト」「顧客目線」という言葉を使いますが、Webサイトのインターフェイスだったり、スマートフォン対応だったり、サーバー容量だったりと、システムの話ばかり。「『本当の』顧客目線」は、現場の人間に会いに行って「話す」ことなのだと痛感しました。
リアルで地道に、しかし着実に活動をして、ブランドを作る。ブランドができてくると、インターネットでも探してもらえる、見つけてもらえる。逆に、訪問美容サービスのような事業は、インターネットだけでブランドを作ることはできません。いま、Web活用として少しずつ花が咲いてきたところなのかなと思います。訪問美容サービスは今後、全国展開に力を入れていくといいます。そして、全国に「50万円稼げる人を2人創出するのではなく、5万円稼げる人を20人創出する」ことが実現できるよう、今後もぜひ頑張っていただきたいと思っています。
第14回Webビジネス研究会、いかがだったでしょうか?今回は少人数での開催でしたが、高橋さんのお話、そして議論・懇親会と非常に盛り上がりました。また、今回の研究会で会場をお貸しくださったプライスウォーターハウスクーパーズさん、ありがとうございました。次回のWebビジネス研究会は7月の開催を予定しています。内容等、決まり次第、BPIA事務局よりご連絡を差し上げます。最後になりましたが、ゲスト講師の高橋さん、ご参加していただいた皆様、会場をご提供いただいたプライスウォーターハウスクーパーズ内田会長そして当日管理をしてくださった元田さん、BPIA事務局の山内さん、誠にありがとうございました。それではまた次回、お会いしましょう!
◎株式会社訪問美容サービス
http://houmon-biyou.jp/
石田麻琴 株式会社ECマーケティング人財育成 代表取締役社長
<いしだ・まこと> 早稲田大学第一文学部卒業後、インターネット通販ベンチャーに6年間勤務。ネットショップ店長として、仕入・マーケティング・システム構築・物流などを1 人でこなし、1年間で売上7,000%アップ、年商3億円を実現。インターネット通販を中心としたマーケティング支援/マーケティング人財の育成を目的とした株式会社ECマーケティング人財育成を設立。有力EC/Web企業を支援。船橋情報ビジネス専門学校特別講師など人材育成にも注力。その他、商工会議 所での講演、新聞やWebでの連載など。
ご紹介;連載中のITMediaエグゼクティブコラム(http://mag.executive.itmedia.co.jp/executive/articles/1302/13/news013.html)