「多様な人のコラボを支援する会社だからこそ・・・」
~~選択の自由を確保し、社員の一体感を醸成する~~
サイボウズ株式会社の人事制度
グループウェアの開発・販売を行っているサイボウズ株式会社は、6年間の育児・介護休暇を認めるなど、ユニークな人事制度で知られる。
2005年には、離職率が28%を超えて、危機的状況になった。そこから、ワークスタイル、人事評価制度の大改革が始まった。
中根弓佳事業支援本部長に、人事制度の理念、概要、成果などについてお話を伺った。
働き方を選択できる制度にした
中根 当社では、社員がライフスタイルの変化に合わせて働き方を選択できる「選択型人事制度」を導入しています。
また、基本的な働き方(後述の3種類(場所を含めると9種類))を宣言していても、毎日仕事をしていると変化がつきものです。「歯医者に行きたい」とか「子供のことで」など突発的に変更したい時があります。そこで、選択した働き方に関わらず、単発的な変化に対応しようと「ウルトラワーク」という制度を設けています。「子供の看病のため、今日は家で仕事をします」とか「午前中は出張先のホテルで働きます」というように、「時間」と「場所」を自由に選ぶことができます。
それと、多くの会社では「副業禁止」にしていると思いますが、当社では原則「副業をやってもいいですよ」ということにしています。「会社の資産を毀損しないこと」など「やってはいけないこと」以外はフリーにしています。
Q 「会社で仕事をする人」はどんどん仕事をするので高い報酬を得ることになると思いますが、給与はどのようになっていますか?
中根 チームに対するコミットが高くなって、会社から相応の給料を得る。一方で、そうでない人は「時間と好きな場所」という個人としての報酬を得るというように考えています。
Q 職場で「がんがん働きたい人」と「適度に働きたい人」が混在すると、業務がやりにくいのではないですか?
中根 管理職が、部下をどうアサインするかが大事だと思います。事前に自分の働き方を宣言しているので、マネージャーも周囲もその希望に沿うようにやるということです。
ただ、「本当は適度にやって、早く帰りたい」と思っているのに、「ガンガン働く」を選択するケースがあります。それは、本人が自律していないので、自律するように教育・研修をしなければなりません。
Q 自律させるためにどのような方策を取っていますか?
中根 基本はスキルアップ。「できること」を増やすことだと考えています。ただ、実際は1年目の社員で「在宅勤務」を多くすることは難しいと思います。5-6年の経験を積んで、自分で判断できるようになれば、より実施しやすくなると思います。それで選択肢が増えます。
あとは自己責任です。選択するということは、片方を「捨てる」ことです。捨てる覚悟ができないで、片方を選ぶというのは無理で、そこができるようにしなければなりません。
Q 御社では、働く時間としてはワーク重視型(裁量労働)、ワークライフバランス型(月残業時間40時間以内)、ライフ重視型(残業なしまたは短時間勤務)の3つのワークスタイルが選択できますが、その割合はどうなっていますか?
中根 ワーク重視型が70%、ワークライフバランス型が20%、ライフ重視型が10%といったところです。毎月変更は可能ですが、そんなに変える人はいないですね。マネージャーには「半期に一回は確認してください」と言っています。
今年度からは、時間軸でわけた3つの働き方をさらに分類し、縦軸を「時間」、横軸を「場所」として、働き方を9タイプに分類しています。
「我々自身が多様な働き方をする」ことが製品に生きる
Q ワークスタイルは、会社の理念の発現だとも言えるのですが、その点はいかがですか?
中根 サイボウズはグループウェアを作って売っている会社です。グループウェアというのはチームワークの成果を高めるツールです。
私たちは、同じようなタイプの人が集まって最強のチームが作れるとは思っていません。多様な人がそれぞれの強みをうまく生かした方が効果が高いと思っています。優秀な人がいて「こういう働き方しかできません」と言われ、それを我々が受け入れなかったら、その人はゼロになってしまいます。それでは理想の実現が困難になります。
そうした多様な働き方をグループウェアが支えていて、場所とか時間を強制せずにコミュニケーションがとれることを実現しているわけです。我々自身が多様な働き方をしていく中で「グループウェアってこうあるべきだよね」ということで、製品開発にも活かせます。
Q サイボウズは10年ほど前に、離職率が28%にも達し、その危機から脱出するために人事制度を改革してきたと聞いています。その際、何が問題だったのですか?
中根 最も劇的に変えたのは「評価制度」ですね。
もともとは「イケイケドンドン」の成果主義でやっていて、その後市場評価、360度評価、相対評価も入れてきたのですが、「チームの一体感がなくなる」という問題が起きたのです。「誰を見て仕事をすればいいのか」という戸惑いが広がった。そこで能力評価に変え、長期に人を育てるという方針に変えました。あとは多様な働き方を許容し、部活動を奨励するなどで、チームの一体感を取り戻し、離職率も4%程度に下がったのです。
6年間の「育『自分』休暇」と「感動課」
Q 昨年、20代の女性社員が青年海外協力隊で働きたいということで、会社を辞めようとしたら、それを休暇扱いにして、復職可能にしたというニュースがありましたね。
中根 それは「育『自分』休暇」という制度ですね。
もともとサイボウズという会社は出戻り組の方がいます。サイボウズはグループ全体で500人ほどの会社ですが、若い社員に対する成長機会を何でも与えられるわけではありません。自分が成長するために、外の世界に出ていきたいというのを止めることはできません。「では、外に出て成長してきてください。成長した暁には是非サイボウズに戻ってきてください」という趣旨です。育児休暇の最長が6年なので、「自分を成長させる休暇」も6年にしています。
彼女の場合は青年海外協力隊の仕事でボツワナに行きたいということで、上司と相談して、この制度を適用したのです。現在、この制度を利用している社員は3人います。
サイボウズ以外でも働ける自律的な人間が、「チームワークを世界に広げる」というサイボウズの理念に共感して働く・・・というのが理想だと思っています。
Q 資料を見ますと、「人事部感動課」というとてもユニークな部署があると書いてありますが、これは何ですか?
中根 NHKの「プロジェクトX」の取材チームが来てくれないので自社で作ったのがこの「感動課」です(笑)。
例えば、新しいソフトウェアを開発するときに、開発メンバーは思いを込めて作っています。それが完成して、営業に渡す時に、「その思いを伝えたい」ということでメイキングのビデオを作って完成セレモニーで上映するのです。そこでみんなが涙して、見ていた人が「自分もああいうことをしたい」とかでモチベーションが上がる・・・そういう仕事をしています。
専属の課員は一人ですが、テーマに応じて手伝う有志が常に数人います。
「人を育てる人事部でありたい」
中根 今は「オフィスの中で働く」という選択が多いのですが、それは「なんとなく」だと思います。機器が十分なら、どこで働いてもいいわけですし、チームワークの効果を減らさずに自由にできれば、個人の満足は上がると思います。
「会社にいれば働いていることになる」というのは甘えであって、会社にいなくてもきちんと」仕事ができているというマネジメントを育てて行けるか・・・というのが課題ですね。
当社の人事のポリシーは「100人100通りの働き方ができる」というのと「より多くの人がより成長し、より長く働ける環境を提供する」ということです。
今後は70代、80代まで働く時代になるかもしれません。自分自身が働いて生活の糧を得られるスキルを身に着ける。成長できるという環境を作っていくのが人事部門の責任だと思います。そういう「人を育てる人事部」でありたいと思っています。
<傍白>
サイボウズの人事制度に興味を持ったのは、売っている製品の性格と、人事制度の理念が一致しているという点でした。
中根さん自身、2回の出産でそれぞれ10か月の育児休暇を取ったこともあり、「時間や場所に束縛されず、自律的に働いて成果を出す」という考えを強く意識していることが印象的でした。
一方で、ベンチャービジネスにありがちな自由奔放さから、社員の一体感が失われ、離職率が高まるという危機の中から、「一体感を高めるには」について、懸命に改善を重ねた結果が現在の制度に反映されています。
「感動課」というおよそ他社ではありえない部署があるなど、独自の企業文化を作っていくというチャレンジスピリットに共感しました。
小さいながらも将来が楽しみな会社だと思いました。
(坪田 知己)
<会社概要>
グループウェアのわが国最大手のメーカー。1997年設立。2000年東証マザーズ上場。2006年東証一部上場。本社・東京都文京区後楽1丁目。売上高(2013年12月期)51億9700万円。グループ社員数(2013年12月末)478人。