企業活性化研究会では、これまで、特徴のある経営で成功している企業の成功要因を分析し、日本企業を活性化するための企業のあり方や施策、働き方などを検討してきましたが、昨年度から、中心的な観点を“働き方改革による企業と地方の活性化”と設定して議論してきました。
今後の議論をさらに有益で具体的なものとするため、これまでの議論の一部をここに紹介し、皆さんからの意見やお考えをお伺いしようと思います。BPIA会員に限らず、このホームページをご覧になった多くの方からのコメントを頂戴したいと思っています。また、BPIA会員で本テーマに関心のある方は、研究会に参加して議論に加わっていただくようお願いします。
よろしくお願いします。
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研究会コアメンバ 岡田正志(座長)、坪本裕之、桐山太一、串田昭治、
仙石泰一、椎名清史、小田毘古、山内道晴
地方活性化で企業が貢献できること
― 企業活性化研究会での議論から ―
今年度の企業活性化研究会は、中心的な議論の観点を“働き方改革による企業と地方の活性化”と設定し、「日本のどこでも同じような企業活動ができるビジネスプラットフォームとは何か」を検討してきました。そして、東京集中の構造を変え、地方を含めた日本の活性化のための企業のあるべき姿について議論しました。
製造業がビジネスの中核であったこれまでの社会では、本社と営業機能は東京または大阪などの大都市、生産現場は地方という構造が成立していましたが、産業構造の変化、IT技術や物流システムの進化により、地理的制約をなくすことは可能と思われます。しかし、現実には、IT産業を含め、企業は東京大阪に集中しています。そして、地方都市の住民高齢化、労働適性人口の減少、買い物難民、商店街シャッター街化などの問題が深刻化しています。こうした状況を少しでも緩和するには、地方で活躍する企業を増やすことも施策のひとつと思います。
そこで、地方の活性化と企業のあり方について考察してみました。
地方の活性化と企業のあり方に関して、以下のような数多くの指摘や疑問があります。
- どこでも仕事ができると言われているシステム開発などの情報産業でさえ首都圏に企業が集中しているのが現実であり、そこには顧客に近いところが効率的という経営判断が優先される
- 一方で、地方を拠点とし、地域に貢献しているグローバル企業もたくさんある
- 首都圏を拠点とする企業があえて地方に移るという経営判断の必然性はなく、現実味もないのではないか? 従業員が移ることも困難で負担が多い
- 効率や生産性とともに、社会貢献の要素を重視した経営は現実に可能か
- 地方で人材は集まるか? 人材を呼び寄せられる魅力ある地方都市や地方企業の要素とは何か
- 製造拠点であった工場の撤退などで地方が疲弊するリスクを少なくするにはどうするか
- すべての要素を盛り込んだ「まち・ひと・しごと創生総合戦略」で本当に地方は活性化するか
- 地域商品券やふるさと納税は、地域や地元企業にどの程度貢献しているのか
- 行政の予算は年度単位であるので施策の継続性に問題があり、民間主体の活性化策を主体として推進すべきではないか
- 人口減少と高齢化がもたらす深刻な影響は、地方地域ばかりでなく、今後は首都圏周辺にも及ぶと予測されているが、社会構造はどう変化するのか
- 新幹線網の整備が企業戦略や企業の立地にどのような影響をもたらすか? 北陸新幹線の金沢までの開業で実施された本社機能の一部移転の成功の条件は何か
- コンパクトシティの考え方は、どこまで地元に受け入れられるか
- 農業の6次化はメジャーになりうるか
- 個別の成功事例が紹介されることは多いが、その継続性や適用拡大はどうなっているのか? 点でなく面で広げることが重要である
などなどです。
こうした疑問や指摘を前提に、地方の活性化を企業や企業活動という観点でみたときに何が必要かを考えてみました。
①首都圏と同等の企業活動が全国どこでも実現できるICT環境の構築、業務プロセスと働き方の革新、働き方の選択肢の充実を実現すること
- ICTや物流の仕組みを活用した仕事の仕方やプロセスの改革、外部環境の進化を取り入れたビジネスモデルの開発、請負方法等の改善
仕事の切り出しと要求仕様の記述法、管理方法等の確立
クラウドソーシング等の新しい外注方式の確立(セキュリティ、適用分野拡大等の課題解決) - 場所や時間を選ばない働き方の確立、働き方の選択肢の充実(特に女性の生活スタイルに合わせた選択肢の確立)、遠隔勤務を前提にした評価方法の確立、経営者の意識改革
- ICTによる遠隔コミュニケーションの改善
臨場感のある低価格テレビ会議システム、スマホの利用技術、通信技術やツール等の開発と普及 - 試行実績の積み上げ(IT活用を推進する立場の情報産業が率先して実践)
②地方に拠点をもつことが有利で必然性のある施策を実施すること
- BCP対策の地方拠点(機能の一部移転、二重化)
地震や異常気象、犯罪などのリスクに対応した事業構造、拠点構成、業務プロセスの構築と平時からの導入が必要(大きな震災等から時間がたつと対策に対する動機が薄れる傾向) - 地方の特色や伝統を活かした産業の活性化、地方活性化貢献企業ファンドの組成
地場産業を基盤とした生産物や部品等の採用、異業種への進出 - 地方の有力企業や大学とのコラボレーション事業の発掘
たとえば、コンソーシアム型で地方の特徴ある技術などを交流する場を提供する - ベンチャーの起業の拠点
廃校となった校舎、空き家、工場跡地等の活用、地場産業とのコラボレーション - 良好な外部環境、賃料など低コスト運営、広いオフィスなどの地方のメリットを活かした従業員満足度向上施策の展開
野外施設等での勤務環境の試行、社員教育の拠点としての活用 - 従業員の地方での生活の支援、地方拠点への転居支援
③若中高の全世代が生活できるバランスのよい地方都市であること(企業従業員や地元の人が長く住み続けられる生活空間をつくる)
- 資金力のある有力地方拠点企業の地域貢献策の推進
民間の資金や土地活用による集客力のある文化施設等の建設運営(例:大塚国際美術館など) - 地方大学の育成、大学と企業や自治体とのコラボレーションの強化などによる人材流入策の検討
産官学による研究テーマの絞り込み、特色ある大学運営(例:近畿大学、国際教養大学など)
主要大学(旧帝大等)と地方大学との連携 - 教育(小中高)の充実、特色ある教育関連施設、子育て施設や医療施設の確保などへの支援
若い世代が地方に住み続けるための必須条件 - 商店街の活性化(大型ショッピングモールと共存)、中小企業の生き残り支援
経営センスのある人材の育成、世話役の発掘、事業継承の優遇制度、用地貸与、特区の活用 - 活力ある農業法人等の育成、休耕農地の活用(貸農園等)などのアイデアの発掘、実践
④自治体が創意工夫をし、活性化に積極的に関与すること(企業とのコラボレーションの強化)
- 工場等の撤退リスクを最小限にする企業誘致の施策
本社機能の一部を含めた誘致、地域の特性を有利に活用できる企業の誘致、地域交流の強化 - 地方を拠点とする企業への支援強化
地元の活性化につながる事業への助成、用地確保や異業種交流などへの支援
地場の特色のある企業の掘り起し、表彰制度、広報活動 - 若者が企業との関連のなかで、地方で生活維持できる施策の推進
- 自治体自体のICT能力の向上、人材育成の強化
具体的には、個々の企業や自治体の方針、おかれた環境等により施策は異なります。当研究会では、議論を抽象論で終わらせないように、個々の企業をとりあげた検討やテーマ性のある施策を展開している企業を訪問してヒアリングを実施してきました。
今年度に実施した企業訪問で、NECネッツエスアイの関西支社は、スマホやテレビ会議などの通信システムを駆使して、全国どこにいても会議に参加でき、相手の顔を見ながら情報交換のできる仕組みなどを使ってプロセス改善を進め、生産性をあげています。東洋アルミニウムは人材育成に力をいれ、工場での現場力強化を図っています。オロナミンCなどの一般向け製品や医薬品でおなじみの大塚製薬は、事業がグローバル化した現在も発祥の地である徳島に主要拠点をおき、徳島の発展や文化形成に貢献しています。地方を大切にする姿勢が企業の原動力となっている例と思います。
今後は、特定の企業、大学や自治体とタイアップして、より具体的な議論と実践的な施策の検討をおこなっていきたいと考えています。
本テーマに関連する参考資料
- 「日本再興戦略」改訂2015-未来への投資・生産性革命-、日本経済再生本部、2015.6
- 「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」、まち・ひと・しごと創生本部、2015.6
- まち・ひと・しごと創生「長期ビジョン」と「総合戦略」、閣議決定資料、2014.12
- 地域経済の活性化を担う地元企業の役割、日本経団連、2007.6
- まち・ひと・しごと創生とICT街づくり、ICT街づくり推進会議配布資料、総務省、2014.12
- 「地域中核企業活性化ファンド」の設立について、地域経済活性化支援機構、2015.4
その他、個別の事例については多数の報道記事、紹介記事等があります。
(岡田正志 B&Tコンサル・オフィス・オカダ 代表)
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