Webビジネス研究会 レポート 研究会 2011年度 研究会/講演会

【第1回 Webビジネス研究会】報告

「レポート:研究会ナビゲータ・石田麻琴」
テーマ:グローバルWebとエスノグラフィー
講 師:田中猪夫 FatWire株式会社 代表取締役
上平泰輔  株式会社大伸社 常務取締役
2011年11月22日(火)16:00~19:00 / 市ヶ谷 アーク情報システム

 

ついにWebビジネス研究会(https://bpia-box.com/?p=47) がスタートしました。11月2日のBPIA総会での新研究会発表から、わずか3週間後というスケジュールでしたので、どのくらの方々にご参加いただけるか、少々不安もありましたが、事前登録を上回る25名のみなさまにお越しいただき、また20名程度の方に懇親会までお残りいただくことができました。素晴らしいスタートがきれたと思っています。感謝しています。

 

さて、第一回のWebビジネス研究会、ゲスト講師にFatWire株式会社代表取締役の田中猪夫氏と、株式会社大伸社常務取締役の上平泰輔氏をお迎えしました。今回のテーマは「グローバルWebとエスノグラフィー」。僕自身、BPIAで研究会をするならば、「事例を紹介して、マーケティングノウハウ(しかも一時的にしか効果がない)のさわりを話して・・」というような、巷のどこにでもあるような会にはしたくない、僕だからこそ突っ込める「Webの本質」を探究できるような会にしたい、という想いがありましたし、ちょうどBPIA事務局の臼井さんからのご紹介もあって、運よく田中さんと上平さんにお願いすることができました。正直な話ですが、初めて田中さんにお会いした10月14日、僕は田中さんの仰っていることが、半分もわからなかった。それが自分自身とても恥ずかしくて、この1ヵ月間けっこう勉強しました。田中さんが仰っていたことを思い出しながら。

ですから、この第一回目の研究会は「田中さんが仰ることを僕はどのくらい理解できるようになったか」という意味でも、個人的にとても楽しみな日でした。

 

ゲスト講師お二人にお話いただく前に、第一回目の研究会ということで、その主旨を僕からみなさまに話させていただきました。こんな話です。
Webを使ったビジネスというのはまだまだ成長段階にあります。例えば、「ホームページを作れば売上に繋がる」とか「広告をかければ結果が出る」とか「システム導入しましょう」とか、手段ばかりが前面に出ていて、そこで儲けようとしている人間もまだいるのが事実。Twitterやりましょう、facebookページ作りましょう、とかそんな情報も同じで、「やれば」受注が増えるなんてことは絶対にない。いま何が必要かといえば、「コンセプト=Webでどんな価値を提供するか」「データマネジメント=データをどう集め、次の戦略にどう活かすか」この2つのポイントを見直すことではないだろうか。本当に今のWebビジネスにはそれがあるか。これがWebビジネス研究会のベースとしてある。
そして、もうひとつは僕個人が考えているテーマ。この日本という国の人口が減っていく中で、顧客をたくさん集められる(ある意味、独占できる可能性がある)Webビジネスという存在がどうなっていくのか、それとも考えること自体ナンセンスなのか。また、人口やGDPが拡大し続けている国のWebビジネスと、人口が減っていく国でのWebビジネスはどんな違いを見せていくのか。研究会を通しながら、そのヒントを得、考えていければと思っています。

自分で話した内容でしたので、こちらは当日の内容をそのままおこしました。僕の話は第一回目の冒頭だけ、の予定でしたが、以降のWebビジネス研究会でも、少しお時間をいただき、「いまの想い」を述べさせていただいていこうかと考えています。楽しみに(?)していただければ幸いです。

そして、いよいよゲスト講師の田中さんにお話をいただきます。当日のfacebookに「資料は極力使わず、アドリブで話したい」というようなことが書かれていましたので、思わず「いいね!」を押してしまいました。次に出る言葉がわからないから、人の話は面白いわけで、資料の棒読みから本音は出てこないですよね。

 

田中さんの言葉を借りれば「曲者」。

現状のWebビジネスについて、Webページというものが「印刷の概念」や「ページ=1枚の紙」という認識によって成り立っている点は、Webというものの価値を非常に狭めているように感じます。Web制作会社は1枚いくらという単位で仕事を請けますが、それは結局、旧来の印刷会社が仕事を請け負うのとあまり変わりません。単にHTMLを使って、Web上に情報を載せているだけで、新聞やチラシをそのままPDF化して載せるのと実は大差がないんです。もちろん、テキスト化することでSEO対策が可能になるとかありますが、そういう細かい話はここでは抜きにして。さらに、多言語化する場合は、そのページ1ページをそれぞれ翻訳する手間をかけている、というのが現状。ページ数×言語数×対応OSというふうにページを作っていくと、これは無限大の作業になるわけです。

僕は以前、ネットショップをやっていたときに、アマゾンにも出品していた(アマゾンは出店ではなく出品という形になる)のですが、アマゾンはグローバルWebの例としてわかりやすいように思います。まずデザインとレイアウトという枠があり、その中の小箱に各商品の情報(データ)を入れていく、というのがアマゾンというサイトの仕組みです。ページに掲載できる情報は100以上もあり、価格・在庫数など必須の項目もありますが、ほとんどの項目はオプション項目で、逆にこのオプション項目以外の項目をページに作成することはできません。しかし、オプション項目が情報を網羅しているので、ほぼ問題も起こらないわけです。ちなみに、必須項目以外の情報を全く入力せずにページを作成すると、非常に情報の少ない寂しいページになります。それはいいとして、アマゾンのサイトはUI×情報のみによって出来ているわけです。そして、その「情報」を多言語化することで、Web上では簡単にグローバル展開ができるということになります。UIが世界で統一されているため、ユーザも使いやすいわけです。facebookの仕組みも同じです。田中さんが「facebookは多言語のプラットフォーム上にある」と仰るところも、ここにあるのではないでしょうか。

facebookに関連してもうひとつ。田中さんも話題に挙げてくださったf-commerce(ソーシャルコマース)の僕なりの見解について。

e-commerce業界、Web広告代理店業界、Web制作会社業界でf-commerceが最も話題になったのが今年の春頃。そこからf-commerce用にfacebookページの「いいね!」を大量に集める会社が増え始め、さきかげとなったS1O(satisfaction guaranteed(http://satisfaction-guaranteed.jp/))は70万「いいね!」を突破。そのほとんどが海外、特にアジアでfacebookユーザ数が多いインドネシア・フィリピン・タイなどなのですが、グローバル展開に成功しているという話は聞きません。むしろ、「いいね!」を増やす方法をコンサルしていることもあり、70万「いいね!」はほぼマネタイズできてないのかなとも思います。そんなわけで、夏以降f-commerceの話題をする人間が減っている、というのが現状なんですよね。

僕は日本人がf-commerceについて、2つの勘違いをしていると思っています。ひとつは「日本のこのソーシャルの波と、ソーシャルで物を買う時代がきている、を混同している」勘違い。もうひとつは「日本での成功事例を作ってから、グローバル展開をしようとしている」勘違い。前者については日本という国の景気、可処分所得が関係しているのではないかと思います。冒頭でも述べた、「拡大している国のWebと縮小している国のWebは違う」という部分です。また、facebookユーザ数が少ないことから、f-commerce市場も黎明期でだろうと。まあこの意見は、販売主も購入主も日本国内のみを対象にしている、という狭い前提の上でのことではありますが。後者については、「日本での成功事例」は「グローバル展開の成功」には繋がらないだろう、という単純な考えです。これはS1Oの苦戦を見れば明らかだし、もっと以前に身に覚えのある企業さんも多いのではないでしょうか。
とはいえ、今年のf-commerceへの関心としては「SNSは広告集客の代用となるか」という、短絡的な考えが非常に強かったのが事実ですね。Web業界の方は「手段=戦略化」が非常に好きで、すぐに結果を欲しがる傾向にあります。今までのWebビジネス自体が、「手段」だけで成果を得ることができたので、「頭を使う」ということを忘れている方が多いでしょうが、結局f-commerceはf-commerceとして、グローバル展開を前提として、きちんと戦略とプロセスを練り、成功のために試行錯誤し続けなければいけないという、シンプルな結論なのでしょう。当然といえば、当然ですが。

しかし、そこまでf-commerceを「本気」で考え、アプローチしようとしている日本人を、僕はまだ知りません。既存のe-commerce業界の人間から出てくることは考えにくいし、デジタルネイティブ世代の目は完全に開発側に向いている。さて、今後の展開はいかに・・?

田中さんが後半でお話してくれたのが、Customer Experience Management。顧客IDを徹底的に突き詰めたビジネスについて。国民総背番号制のように、企業をID管理し、データからID同士を紐づけることによって、ECの世界で使われるような「レコメンデーション(おすすめ商品の提案)」「クロスセル(関連商品・組み合わせ商品の提案)」「アップセル(より上位のものを提案)」が可能になるというわけです。もちろんBtoBのアプローチにおいても然り。これに気づいている企業と気づいていない企業で、10年後に相当な差がついていることは、田中さんも仰るとおりかと思います。

特に今後、日本国内の市場を掘り下げようとする場合、人口も企業数もどんどん減り続けていくわけですから、重要なのはいかにOne to Oneのマーケティングを展開し、生涯顧客化させていけるか、つまりファンを作っていけるか。そのためにも、既存顧客のID化と情報をデータベース化することによって、顧客⇔顧客、顧客⇔情報、情報⇔情報、情報⇔顧客(これが四角形のマトリクスになる)を活用することがより必要になってきます。余談ですが、この手の話が出たとき、僕は「石田三成の三杯のお茶」の話を例にしています。(知らない方はぜひ検索してみてください!)

 

続いて、上平さんのお話。

エスノグラフィーという言葉を初めて聞かれた方も多かったのではないでしょうか。実を言うと僕もそのひとりで、10月に田中さんにお会いして上平さんをご紹介いただくまで、恥ずかしながら全く知らなかったのです。ただ、その時にお聞きした田中さんの「インドで車を買う人は運転手を雇う。運転は任せて、自分は後部座席で仕事をこなす。それを知っていたら、後部座席が広い車が売りやすいとわかるはず。そんなこともマーケティングしていない」というお話がとても印象に残り、こんな方法があるのかと目からウロコでした。

エスノグラフィーを端的に説明すると、「フィールドに入りこんで、観察やインタービューを行い、そこで生活する人達の文化や社会システムを理解するアプローチ」。新興国やBOPの各国へのマーケティングには特に使われているようです。欧米では非常に当たり前になっていて、韓国・中国も7-8年前から取り組んでいるのに、日本の企業は最近やっとその必要性に気づいてきたとのこと。

エスノグラフィーにおいて大切なのは、「インサイト」を見つけることです。新しいものを開発するとか作り出すということではなく、ちょっと見方を変えれば「な~んだそういうことか!」ということを、観察とかインタビューとか各種の手法で発見していく、のがエスノグラフィーの本筋。そして、単にパラパラと人を観察していくのではなく、「この行動はどういう意味を持つんだろう?」つまり「インサイトは何なのだろうか?」ということを考えていくことが重要で、逆に言えば、チェックすべき項目・先入観は「必要ない」ということなのです。

特徴としては、ユーザから「何をしているのか」ということを聞くのではなくて、実際に「何をしているか」を理解するところにあります。グループインタビューでは、ウソを言っているつもりはなくても、それは「過去に起こったことを話す」ということなので、エスノグラフィーとは異なっていて、本質的にアプローチしていくのは「自分も気がつかないうちにやっている」こと。だから、アンケートを取ってそれを分析するのではなく、むしろ人がアンケートを書いているときの様子や仕草を見て、それを観察する。そこからインサイトを探す。

例えば、有機野菜のネット通販の場合。商品が注文者に届く前から録画を開始させていただき、到着から開封までを分析します。単に開封後の感想を伺うだけだと、「おいしそうです!」とか「きれいに包装されていますね!」などの意見(大体がポジティブ)が出るだけなのですが、様子を観察していると、中身が見える一瞬の無意識な表情の変化(開封した瞬間イメージと違う「え~」というネガティブな顔)や、野菜を素早く取り出し包装を変えて冷蔵庫にいれる動き(実は包装に満足していないからこその行動)、到着前と到着後のテンションの変化(上がっていたり、落ちていたり)がわかるというわけです。また、「有機野菜の通販に関して、あなたの考えや感情を表す写真(有機野菜に全く関係のない)を8枚持ってきてください」などという課題をお願いしてみる。「そこにはないが写ってるんですか、なぜそれなんですか」ということを手を変え品を変え深く深くインタビューすることによって、自分も気づいていなかったものが見えてくる。というような手法もあるようです。

ここで僕が上平さんに向けて大きな間違い発言をしてしまったのですが、エスノグラフィーは「統計学」ではありません。むしろ、統計学とは真逆で、「平均的な」部分を探すのではなく、「飛び抜けている」部分を探す。その「飛び抜けている」部分が、ある特定の趣味嗜好を持つ人達のカテゴリーや、特別な文化を持つ人々のカテゴリーにおいて、潜在的な非常に強いニーズになっている可能性がある、ということです。

僕は完全なズレ発言をしてしまいましたが、結果としてエスノグラフィーの理解を深めることができたので、恥をかいてよかった、のかもしれません・・。そして、尤も僕が印象に残ったのは「わかっているものをまとめても仕方ない」という上平さんの言葉。それがエスノグラフィーの本質ではないかとも思いました。

以上、第一回Webビジネス研究会のナビゲータ石田レポートでした。僕自身の意見を述べた部分と、田中さん上平さんの仰っていたことを僕なりにまとめた部分がゴチャゴチャになっているかと思いますが、これからのレポートのレベルアップを見守るスタートラインということでご納得&ご容赦ください!

また、第一回目のWebビジネス研究会ですが、懇親会まで残っていただけた方がこれまでの研究会の中でも非常に多かったと事務局の臼井さんから伺いました。研究会を盛り上げていただけた皆様に深く感謝しております。

次回のWebビジネス研究会は年明け1月24日(火)株式会社みんなのウエディング取締役の中村義之氏をお迎えして、結婚式場口コミサイト「みんなのウエディング」のコンセプトとデータマネジメントについて深くお聞きしたいと思います。今回お越しいただいた方はもちろん、ご都合が合わなかった方もぜひともご参加くださいませ!

 

最後になりましたが、田中さん上平さん、参加者のみなさま、誠にありがとうございました。

 

さて余談ですが、「石田は田中さんが仰ったことが100%理解できたのか?」。それは今後の僕の実行と実現を見ていただければわかるかと思います。そのためにも、ぜひWebビジネス研究会で定期的な意見交換をお願いします!!

 

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石田麻琴 株式会社ECマーケティング人財育成 代表取締役社長

<いしだ・まこと> 早稲田大学卒業後、ネット通販ベンチャーに6年間勤務。1年間で売上7,000%アップ。1人で年商3億円を実現。仕入・マーケティング・システム開発・マネジメントなど、ネット通販の経営力を徹底して身につける。「『いつかやろう』を、『いまやろう』に」をテーマに、ネット通販を中心としたインターネットビジネス支援の株式会社ECマーケティング人財育成を設立。自身のtwitterでは「読んで得するネット通販のコツ」を連載中、フォロワー4万人を突破。徹底した「本質主義」の姿勢と提案から、ネット通販だけでなくWEB関連のセミナー講演も受けている。クライアント満足度・信頼度100%を目指している。